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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)6071号 判決 1985年6月28日

原告

東京都

右代表者知事

鈴木俊一

右指定代理人

大嶋崇之

外二名

被告

筒井宗吉

被告

薄井信男

右被告両名訴訟代理人

鈴木一郎

浅野憲一

高橋耕

錦織淳

主文

一  被告筒井宗吉は、原告に対し、別紙第一物件目録二記載の増築部分を収去して、同目録一記載の建物を明け渡せ。

二  被告筒井宗吉は、原告に対し、昭和五二年二月一日から第一項の明渡し済みまで一か月金二四七〇円の割合による金員を支払え。

三  原告の被告筒井宗吉に対するその余の請求を棄却する。

四  被告薄井信男は、原告に対し、別紙第二物件目録二記載の増築部分及び同目録三記載の建物を収去して、同目録一記載の建物を明け渡せ。

五  被告薄井信男は、原告に対し、昭和五二年二月一日から第四項の明渡し済みまで一か月金五八五〇円の割合による金員を支払え。

六  訴訟費用は、被告らの負担とする。

七  この判決は、第二項、第五項及び第六項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一請求の趣旨

1  主文第一項と同旨

2  被告筒井宗吉(以下「被告筒井」という。)は、原告に対し、金一万四五六〇円及び昭和五二年二月一日から主文第一項の明渡し済みまで一か月金七二八〇円の割合による金員を支払え。

3  主文第四項から第六項までと同旨

4  仮執行宣言

二請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一請求原因

1  別紙第一物件目録一記載の建物(以下「本件第一建物」という。)及び別紙第二物件目録一記載の建物(以下「本件第二建物」という。)は、いずれも原告が所有し管理する都営住宅である。

2  被告筒井は昭和二八年三月一三日本件第一建物を、被告薄井信男(以下「被告薄井」という。)は昭和二四年一〇月一三日本件第二建物を、原告から次の条件でそれぞれ使用を許可され、以来引き続きこれに入居している。

(一) 使用期限 定めなし

(二) 使用料(昭和五二年一月当時)

(1) 被告筒井について 金七二八〇円(規定使用料金五六〇〇円、付加使用料金一六八〇円)

昭和四八年基準

昭和四九年基準

(一)

被告筒井 金二八万〇五一八円

金三四万七四九一円

(二)

被告薄井 金二八万二九九八円

金四六万八八九五円

(2) 被告薄井について 金五八五〇円(規定使用料金四五〇〇円、付加使用料一三五〇円)

(三) 使用料納入場所 原告の住宅局管理部収納課

(四) 使用料納入期限 毎月末日限り

3  右各入居後、被告筒井は、本件第一建物に別紙第一物件目録二記載の部分を増築し、被告薄井は、本件第二建物に別紙第二物件目録二記載の部分を増築し、同目録三記載の建物を付置した。

4  原告は、昭和五〇年一〇月ころ、被告らの最近二年間の収入を調査するため、被告らの昭和四八年度及び昭和四九年度における所得税に係る源泉徴収票等に基づき、法令(東京都営住宅条例(昭和二六年東京都条例第一一二号、以下「条例」という。)第二条第六号、公営住宅法施行令(昭和二六年政令第二四〇号、以下「政令」という。)第一条第三号及び第六条の三第二項並びに所得税法第二編第二章第一節から第三節まで)の定める計算方法により、その収入月額を算出したところ、次のとおりであつたので、原告は、条例第一九条の五に基づき、被告らの昭和四九年度の収入月額を昭和四八年の所得税に係る収入を基準として算出される収入月額と、また昭和五〇年度の収入月額を昭和四九年の所得税に係る収入を基準として算出される収入月額と同額とそれぞれ認定した。

5  以上によれば、被告らは、いずれも当該都営住宅に引き続き五年以上入居しており、かつ、最近二年間引き続き条例第一九条の五により認定された収入が政令第六条の三及び条例第一九条の六の定める基準(政令では月額金一九万五〇〇〇円、条例では月額金二六万六〇〇〇円)を超えるもの、すなわち条例第一九条の六の高額所得者になるので、原告は、被告らを高額所得者と認定し、条例第一九条の六に基づき、被告らに対し、右のとおり認定した旨通知し、右通知は、被告筒井については昭和五〇年一一月一八日、被告薄井については同月二二日に、それぞれ到達した。

6  原告は、被告らに対し、右通知と同時に、原告が被告らに東京都住宅供給公社住宅(以下「公社住宅」という。)又は日本住宅公団住宅(以下「公団住宅」という。)の優先入居や低利住宅建設資金融資のあつせんをすることを通知して被告らのあつせん希望の有無を調査し、さらに昭和五一年三月から六月にかけて直接面談して右あつせんについて説明したりあつせん案内を送付するなど、被告らが本件第一建物及び同第二建物の明渡しを容易にできるよう相談・指導等(公営住宅法(昭和二六年法律第一九三号、以下「法」という。)第二一条の四及び条例第一九条の九の定める措置)を行つたが、被告らは、いずれも右各建物を明け渡そうとしなかつた。

7  原告は、同年七月一六日、条例第一九条の七に基づき、東京都都営住宅高額所得者審査会(以下「本件審査会」という。)に被告らに対する各明渡請求の可否を諮問したところ、本件審査会は、同日被告らに対する各明渡請求を「可」とする答申をした。

8  そこで、原告は、被告らに対し、法第二一条の三及び条例第一九条の七に基づき、昭和五一年七月二一日付内容証明郵便をもつて、昭和五二年一月三一日限りで本件第一建物及び同第二建物の各使用許可を取り消し、同日限り各建物を明け渡すよう通告し、右通告は、被告筒井については昭和五一年七月二二日、被告薄井については同月二四日それぞれ到達した。したがつて、被告筒井に対する本件第一建物の使用許可及び被告薄井に対する本件第二建物の使用許可は、いずれも昭和五二年一月三一日限り取り消されたので、被告らは、それぞれ右各建物を明け渡し、かつ、条例第一八条により、3記載の増築部分及び付置建物を収去する義務がある。

9  よつて、原告は、被告筒井に対し、右3の増築部分を収去しての本件第一建物の明渡し並びに未納入の昭和五一年一二月分及び昭和五二年一月分の使用料合計金一万四五六〇円及び使用許可取消しの日の翌日である同年二月一日から右明渡し済みに至るまで一か月金七二八〇円の割合による使用料相当損害金の支払を求め、被告薄井に対し、右3の増築部分及び付置建物を収去しての本件第二建物の明渡し及び使用許可取消しの日の翌日である同日から右明渡し済みに至るまで一か月金五八五〇円の割合による使用料相当損害金の支払を求める。

二請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、(一)、(二)(2)、(三)及び(四)は認め、その余は否認する。

被告らは、原告と賃貸借契約を締結したものである。

3  請求原因3の事実は認める。

4  同4の事実のうち、昭和四八年及び昭和四九年の所得税に係る収入を基準として原告主張の法令の定める計算方法により算出される収入月額については、被告筒井分は争い、被告薄井分は認め、その余の点は知らない。

5  請求原因5の事実のうち、被告らがいずれも当該都営住宅に引き続き五年以上入居していること及び原告主張の通知があり原告主張の日に被告らにそれぞれ到違したことは認め、その余は争う。

6  請求原因6は争い、同7の事実は知らない。

7  同8の事実のうち、原告主張の通告があり被告薄井について右通告が昭和五一年七月二四日到達したことは認めるが、その余は否認する。

8  請求原因9は争う。

三被告らの主張

1  高額所得者明渡請求制度の違憲性

住居の保障は、人が生活するために最低限不可欠のものであり、居住権は、憲法第二五条の生存権、同法第一三条の生命、自由及び幸福追求に対する権利、さらには同法第二九条の財産権の一種として憲法上保障された基本権というべきところ、法第二一条の三、条例第一九条の六から九まで等により定められたいわゆる高額所得者明渡請求制度(以下「本件制度」という。)は次のとおり、その立法理由及びその手段のいずれにおいても、著しく合理性を欠くものであり、全体として公営住宅の入居者及びその家族の有する右居住権を侵害するものであるから、憲法の前記各条に違反する。

(一) 本件制度は、明渡事由を収入基準にかからしめているが、本件制度の定める収入基準自体著しく低額である上、そもそも人の収入ないし所得は、種々の要因により絶えず変動する不安定なものであつて、本件制度で高額所得者と認定された者も、容易に低額所得者へ転化しうるものであり、両者の互換性、交替可能性は極めて大きく、結局本件制度の明渡事由は極めて不適切であり、居住者は、このような本件制度のために、極めて不安定な地位に置かれて、継続性安定性を不可欠の内容とする居住権を侵害されている。

(二) 本件制度は、高額所得者の存在のため住宅に困窮する低額所得者の入居が困難となつている状況を改めることをその立法理由としているが、右のような状況の真の原因は、公営住宅政策の貧困による公営住宅の絶対数の不足にあるから、右立法理由はそれ自体合理性を欠くものであり、また、入居希望低額所得者の入居の実現は、本件制度による入居者の交替ではなく、公営住宅その他公共住宅の建設、多数存在する公営住宅空屋の利用等によるべきである。

2  形式的要件の欠缺等

(一) 形式的要件の不合理性

本件制度が明渡事由としている「収入」は、居住する公営住宅の明渡義務という重大な不利益を居住者に強制する根拠となるものであるから、その定義概念、算定方法等は、いささかの疑義も生じないよう一義的に明確でなければならないところ、法及び条例は、これらについて明確な定めを置かず、原告の取扱いにおいても、収入認定基準日がはつきりせず、恣意的に設定されているなど、本件制度における「収入」概念、算定方法等は全く不明確である。そのような基準に基づく本件明渡請求は結局運用違憲ないし違法であるといわざるをえない。

(二) 形式的要件の欠缺

(1) 本件制度による高額所得者に対する明渡請求が許容されるためには、明渡請求の通知がされる時点はもちろん、明渡しを求める本訴のような訴えが係属するに至つた場合にはその訴訟の口頭弁論終結時点まで高額所得者の要件たる高額の収入があることが形式的要件として必要であると解される。

(2) 被告筒井は、原告から本件制度による明渡請求の通知をされた年である昭和五一年度の収入は、金三〇七万八三二一円であり、政令及び条例で定める高額所得者たる収入基準を下回つていたことになるから、被告筒井に対する本件明渡請求が右形式的要件の充足を欠いていることは明らかであり、したがつて、右明渡請求は許されない。

(3) 被告薄井は、原告から本件制度による明渡請求をされた昭和五一年七月の時点で、五六歳の高齢で近い将来定年退職により収入が激減することが明らかであり、このことは原告においても容易に認識し得たところ、同被告は、昭和五五年六月二五日勤務先を定年退職し、以後無職となつて一か月金一二万円の厚生年金しか収入がない状態になつたのであるから、被告薄井に対する本件明渡請求がその妻の収入を加算しても形式的要件の充足を欠くことになつたことは明らかであり、したがつて、右明渡請求は許されない。

3  実質的・手続的要件の欠缺

(一) 本件制度による高額所得者に対する明渡請求が許容されるためには、法及び条例の制定趣旨、制定経緯や法を審議した際の国会の付帯決議等からみて、最近二年間引き続いて収入基準を超過する高額収入があるという形式的要件以外に、実質的要件を充足すること、すなわち、収入基準超過の程度、明渡請求時における右超過の有無、居住者及びその家族についての死亡、失職、退職等の事情、今後の収入の増減の見込みとその程度、病気、災害その他生計費の支出の増大、家族収入合算や扶養親族の有無及び程度、住宅取得や移転可能性の有無等の個別的具体的事情を考慮検討して、それでもなお明渡請求が許容すべき事情があること並びに手続的要件を充足すること、すなわち、右個別的具体的事情を斟酌するために、当該居住者からの事情、異議の申出等の聴取及び本件審査会における十分な審査が必要であり、右実質的要件の充足については、本訴の口頭弁論終結時点まで存続することが必要であると解される。

(二) また公営住宅利用の法律関係は、私法上の賃貸借関係であるから、借家法第一条の二による解約制限から自由でなく、法の定める明渡事由に基づく本件制度による明渡請求においても、借家法第一条の二の正当事由が必要であると解されるので、いずれにせよ右(一)の実質的・手続的要件の充足が必要である。

(三) 被告筒井においては、以下にのべる諸事情が認められ、これによれば、同被告に対する本件明渡請求が実質的・手続的要件(正当事由)のいずれをも充足するものでないことは明らかであるから、明渡請求は、本件制度の運用違憲にあたるか違法であり、許されない。

(1) 被告筒井は、明渡請求の通知を受けた時点で六二歳という高齢であつた。

(2) 被告筒井は、第二次世界大戦及びそれに続くシベリア抑留を経て日本に帰国後、原告から東京都浅草桂町の戦災住宅ビルを借り受けて家族と共に居住していたが、昭和二八年三月ころ、原告からの申入れがあり、また、原告住宅局課長ら職員から将来絶対払い下げるとの説明を受けたこともあつて、右説明を信じて右戦災住宅ビルを明け渡し、当時交通の便も悪く家賃も相当高額(一か月金一七〇〇円)であつた本件第一建物に移住し、以後他に土地建物を購入することは一切考えずに、本件第一建物を終生の住まいとして同建物に三〇年にわたつて居住してきた。

(3) 被告筒井夫婦は、現住居(本件第一建物)を中心として強い人間関係を形成してきたので、この地域を離れ、見知らぬところで、新たな人間関係を形成することは著しく困難かつ苛酷である。

(4) 被告筒井は、昭和三四年ころから保険代理店業をはじめたが、その収入は、昭和四九年、同五〇年をピークに低減の一途をたどり、右2(二)(2)でのべたとおり、原告からの明渡請求を受けた昭和五一年には金三〇七万八三二一円と激減し、以後昭和五二年金二〇一万九四三七円、昭和五三年金二二九万八六一九円というように、年額金二〇〇万円前後にすぎず、今後回復する見込みのない状況であり、同被告の年齢もあわせ考えれば、他の公共ないし民間住宅の家賃負担に耐えられる見通しもない。

(5) 被告筒井は、右保険代理店業の顧客を現住居(本件第一建物)を中心に開拓してきたのであり、その顧客の大半は現住居近辺在住者なので、現住居から離れて右業務を継続することは困難である。

(6) 本件審査会は、被告筒井から右(1)、(2)、(4)等の事情についてのべた書面の提出があつたのに、同被告からの直接の事情聴取を怠り、入居者(同被告)の家族構成、年齢、居住年数、収入超過の程度、将来の収入激減の予想等を顧慮せずに、原告住宅局の意向のまま同被告に対する明渡請求を容認した。

(7) 原告は、昭和五〇年一二月二四日ころ及び昭和五一年三月八日ころ、被告筒井が高齢で不況のため大手の顧客を失い、収入が激減して低くなる一方である旨の申入れを受けながら、同被告の公的証明提出をまたずに明渡請求の通知をし、同被告が昭和五二年二月ころ公的証明で右請求時の収入が基準を下回つていることを説明したにもかかわらず、右請求を撤回しなかつた。

(四) 被告薄井においても以下にのべる諸事情が認められ、これによれば同被告に対する本件明渡請求が実質的・手続的要件(正当事由)のいずれをも充足するものでないことは明らかであるから、右明渡請求は、本件制度の運用違憲にあたるか違法であり、許されない。

(1) 被告薄井は、大正九年六月二五日生れで明渡請求の通知を受けた時点で五六歳という高齢であつたのであり、昭和四〇年ころから神経痛を患い、二度の入院を経て現在も治療を続けているが、治癒の見込みはまずなく、また、同被告夫婦間には子供がない。

(2) 被告薄井夫婦は、第二次世界大戦により悲惨な戦争体験をしたが、その生活態度は真面目で、善良な市民としてぜいたくをすることもなく生活してきた。

(3) 被告薄井夫婦は、昭和二四年一〇月ころ、原告住宅局の職員から将来払い下げるとの説明を受けたことから、右説明を信じて、当時交通の便も悪く、家賃も相当高額(一か月金七二〇円)であつた本件第二建物に入居し、以後自らの費用で周囲の環境の改良・改善を行つてきた。

(4) 本件第二建物の属する保谷住宅の敷地が民間会社の所有であつたという特殊性から、同一条件で付近にあつた都営関前住宅が昭和三六年一〇月ころ払い下げられるとともに、保谷住宅についても払下交渉が具体化し、実現の直前まで進行したが、結局原告の不誠実な態度変更で実現しなかつた。このような経緯があつたことから、被告薄井は、本件第二建物の払下げを強く希望し、その実現を信じている。

(5) 被告薄井夫婦は、現住居(本件第二建物)を中心として強い人間関係を形成してきたのであり、同被告の妻は、老齢である上に比国生活が長かつたため、英語に比して日本語が不得手で日本人との意思疎通が困難であるので、永年親しんできた隣人と離れて新たな人間関係を形成することは著しく困難である。また、現住居の属する保谷住宅の他の居住者も、被告薄井夫婦の居住継続を希望している。

(6) 被告薄井の昭和四八年収入を基準とする認定収入月額は、条例の定める基準額をわずか金一万六〇〇〇円超過しただけであり、それも同被告の妻の収入を合算した結果であつて、同被告の収入だけでは右基準額に達していない。

(7) 被告薄井の収入は、昭和四九年をピークに以後低減し、右同被告は、2(二)(3)でのべたとおり、昭和五五年六月二五日の定年退職後は無職で一か月金一二万円の厚生年金しか収入がなく、また、同被告の妻が経営する五星商事株式会社は、昭和五二年五月に多額の赤字を出し整理の過程に入つたが、負債約金七五〇万円をまだ返済することができない状態にある。

(8) 本件第二建物近辺に被告薄井と妻の共有名義の土地建物(東京都保谷市柳沢三丁目一四三番の八 宅地一〇三・〇五平方メートル、同所同番の一九 宅地二一・一九平方メートル、同所同番地の八 家屋番号一四三番八 木造亜鉛メッキ鋼板葺 二階建居宅 一階四二・一三平方メートル、二階三〇・五七平方メートル、以下「柳沢の土地建物」という。)が存在するが、これは同被告らが購入したものではなく、妻の叔父が契約締結後死亡し業者が解約に応じなかつたため、やむなく同被告が金二五〇万円、親戚の者が金四〇〇万円をそれぞれ出捐して購入したものであり、実質的には右親戚の者との共有で、同被告夫婦の持分は五分の二程度しかなく、同被告夫婦だけでは自由に処分することはできないし、同被告夫婦にも柳沢の土地建物に居住する意思もなく、現在夫婦子供二人老人一人の世帯に賃貸しており、同被告夫婦が右賃借人を排除して居住することは困難である。

(9) 原告は、昭和五一年三月五日ころ被告薄井から本件審査会に出席し事情を説明したい旨の申入れを受けながら、理由もなくこれを拒否し、同被告が事情説明のため提出した書面を本件審査会に提出せず、また、本件審査会において右事情説明をしなかつた。

(10) 本件審査会は、被告薄井からの直接の事情聴取を怠り、入居者(同被告)の家族構成、年齢、居住年数、収入超過の程度、将来の収入激減の予想等を顧慮せずに、原告住宅局の意向のまま同被告に対する明渡請求を容認した。

4  権利濫用

(一) 被告らには、3(三)、(四)のとおりの事情がある。

(二) 右(一)の事情があるので、原告の被告らに対する本件各明渡請求は、権利濫用にわたるものであることは明らかであつて許されない。

5  賃料(使用料)の提供及び供託

(一) 被告筒井について

(1) 被告筒井は、原告に対し、昭和五一年一二月二一日従来の賃料(使用料)月額である金二四七〇円(規定使用料金一九〇〇円、付加使用料金五七〇円)を支払おうとしたが、原告があらかじめその受領を拒絶したので、昭和五一年一二月分以降毎月従来の額の賃料を口頭により提供した。

(2) さらに、被告筒井は、原告に対し、昭和五二年八月三一日に、昭和五一年一二月分から昭和五二年八月分までの賃料(一か月右従来の額)を供託した。

(二) 被告薄井について

被告薄井は、原告に対し、昭和五二年二月分から同年八月分までの賃料(使用料)(一か月金五八五〇円)を供託した。

四被告らの主張に対する認否

1  被告らの主張1は争う。

公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対して、低廉な家賃で賃貸することを目的として建設され、賃貸及び管理されてきたものであるが、入居当時は低額所得者であつたがその後の収入増加で低額所得者とはいえなくなつた者が依然として低家賃で公営住宅に居住し続ける一方、多数の低額所得者が公営住宅への入居を切望しながら入居できずにやむなく民間の劣悪で家賃の高い借家に居住することを余儀なくされているという右公営住宅供給の目的に反し、社会的にみても著しく衡平を欠く状況が生じたので、これを是正するために、実効性の十分でない明渡努力義務(法第二一条の二)に加えて、一般の勤労者の所得水準からみても相当高額と認められ、公営住宅以外の住宅に入居しあるいは住宅を取得しうるだけの十分な能力をもつと考えられるような高額所得者に明渡しを請求できるようにし、住宅に困窮する低額所得者に公営住宅へのより多くの入居の機会を与え、右公営住宅供給の本来の目的に合致するように右状況をあらためることを意図して、昭和四四年の法の一部改正及び右改正の趣旨をうけた東京都における昭和四九年の条例の一部改正で新設されたのが本件制度である。

したがつて本件制度の立法理由及びその手段のいずれも合理性を有するものであつて、本件制度は憲法違反ではない。

2  被告らの主張2は争う。

本件制度における「収入」とは、「収入認定基準日から遡つた過去一年間の収入の意味であり、東京都営住宅条例施行規則(昭和二七年東京都規則第一六〇号、以下「規則」という。)第二〇条及び第二一条から右収入認定の確定日は一一月三〇日となるところ、条例第一九条の五第二項が収入認定通知を受けた日から三〇日間の意見申出期間を定めていることから、右一一月三〇日より三〇日前に右通知が都営住宅使用者に到達する必要があり、以上のような収入認定作業の必要性から、結局条例は、一〇月三一日より右到達に要する日数を差し引いた日を収入認定基準日と定めていると解される。ただ右基準日の時点では使用者の前年の収入についてしか公的証明書がとれないため、収入認定の実務処理においては、特段の事情の存しない限り、右基準日の属する年の前年度の所得税に係る収入(前年の一月一日から一二月三一日までの収入)を基準として、右基準日から遡つた過去一年間の収入を認定しているにすぎない。

したがつて本件制度における「収入」の概念、算定方法は明確である。

3(一)  被告らの主張3(一)は争う。

本件制度における高額所得者たる要件は、法第二一条の三第一項及び条例第一九条の六の定めるとおりであつて、形式的要件、実質的要件、手続的要件といつた思考の余地のないものである。

(二)  被告らの主張3(二)は争う。

本件制度に基づく明渡請求は建物の賃貸借終了の法定解約権を認めたものであつて、借家法第一条の二の適用はない。

(三)(1)  被告らの主張3(三)(1)の事実は知らない。

(2)  同3(三)(2)の事実のうち、被告筒井が昭和二八年三月ころ原告から借りていた戦災住宅ビルから本件第一建物へ移住したこと及び当初家賃(使用料)が一か月金一七〇〇円であつたことは認め、原告職員が払下げの説明をしたことは否認し、その余は知らない。

(3)  被告らの主張3(三)(3)及び(5)の各事実は知らない。同3(三)(4)、(6)及び(7)の各事実は否認する。

(四)(1)  被告らの主張(四)(1)及び(2)の各事実は知らない。

(2)  同(四)(3)の事実のうち、被告薄井夫婦が昭和二四年一〇月ころ本件第二建物へ入居したことは認め、原告職員が払下げの説明をしたことは否認し、その余は知らない。

(3)  被告らの主張(四)(4)の事実のうち、本件第二建物の属する保谷住宅の敷地が民間会社所有であつたこと及び原告が都営関前住宅を居住者に払い下げたことは認め、その余は否認する。

(4)  被告らの主張(四)(6)の事実を認め、同(四)(5)及び(7)の各事実は知らない。

(5)  同(四)(8)の事実のうち、被告薄井とその妻の共有名義の柳沢の土地建物が存在することは認め、その余は知らない。

(6)  被告らの主張(四)(9)及び(10)の各事実は否認する。

4(一)  被告らの主張4(一)に対する認否は、同3(三)及び(四)に対する認否のとおり。

(二)  被告らの主張4(二)は争う。

5(一)  被告らの主張5(一)(1)の事実のうち、被告筒井が原告に対し昭和五一年一二月分以降毎月従来の額の賃料(使用料)を口頭により提供したことは否認し、その余は認める。

(二)  被告らの主張5(一)(2)及び同(二)の各事実は認める。

被告筒井に対する使用許可及び被告薄井に対する使用許可は、いずれも昭和五二年一月限り取り消されたので、右各供託はいずれも適法でない。

第三証拠 証拠≪省略≫

理由

一1請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2同2の事実のうち、同2(一)、(二)(2)、(三)及び(四)は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被告筒井が原告から昭和二八年三月一三日右(一)、(三)及び(四)の条件で本件第一建物の使用を許可され、昭和五二年一月当時の使用料額が規定使用料金一九〇〇円及び付加使用料金五七〇円の合計金二四七〇円であること(使用料額が右金額を超えて金七二八〇円であることを認めるに足りる証拠はない。)並びに被告薄井が原告から昭和二四年一〇月一三日右(一)、(二)(2)、(三)及び(四)の条件で本件第二建物の使用を許可されたことが認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

3請求原因3の事実は当事者間に争いがない。

4同4の事実のうち、被告薄井の昭和四八年及び昭和四九年の所得税に係る収入を基準として条例第二条第六号、政令第一条第三号及び第六条の三第二項並びに所得税法第二編第二章第一節から第三節までの定める計算方法により算出される収入月額が請求原因4(二)のとおりであることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被告筒井のそれが請求原因4(二)のとおりであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

<証拠>によれば、原告が、昭和五〇年一〇月ころ条例第一九条の五に基づき被告らの昭和四九年度の収入月額を右昭和四八年の所得税に係る収入を基準として算出される右収入月額と、また昭和五〇年度の収入月額を昭和四九年の所得税に係る収入を基準として算出される右収入月額と同額とそれぞれ認定したことが認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

5請求原因5の事実のうち、被告らがいずれも当該都営住宅に引き続き五年以上居住していること及び原告が被告らに対し条例第一九条の六に基づき被告らを同条の六の高額所得者と認定した通知が被告筒井については昭和五〇年一一月一八日、被告薄井については同月二二日それぞれ到達したことは、当事者間に争いがなく、この事実及び右4認定の事実、<証拠>によれば、被告らが当該都営住宅に引き続き五年以上入居しており、かつ、右4認定のとおり認定された収入が最近二年間(昭和四九年度及び同五〇年度)引き続き当時の政令第六条の三及び条例第一九条の六の定める基準(政令では月額金一九万五〇〇〇円、条例では月額金二六万六〇〇〇円)を超えるものであることになり、結局被告らは条例第一九条の六の定める高額所得者の要件を充たすことになつたので、原告は、被告らを右高額所得者と認定し、右のとおりその旨通知したことが認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

6<証拠>によれば、以下の事実が認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、被告らに対し、右5認定の高額所得者認定の通知と共にこの認定の意味や本件制度等についての説明及び住宅明渡相談についての案内、住宅明渡しについての被告らの希望、意見等を把握するための昭和五〇年一二月一〇日を提出期限とする都営住宅明渡相談書、収入認定後の収入の変動や扶養親族の異動等により所得が政令及び条例で定める基準(右5認定のとおり)以下となつた者等に意見申出の機会を与える(条例第一九条の五第二項)ための同月一四日を提出期限とする高額所得者認定に対する意見申出書並びに高額所得者収入再認定請求書を送付したところ、被告らから原告に対しいずれも同月二四日付の書面で入居当初将来払い下げるとの約束があつたことや収入減(被告筒井については昭和五一年から、被告薄井については書面の日付の約一年後の定年退職により)等を理由に明渡しには応じられない旨の申入れがあつた。原告は、さらに昭和五一年三月ころから同年六月ころにかけて、被告らと個別に面談したり、資料を送付するなどして、本件制度の趣旨を説明し、明渡しへの協力を求め、被告らの明渡しを容易にするために公社公団住宅への優先入居のあつせん(特に被告筒井に対しては本件第一建物近辺のひばりが丘の公団空家賃貸住宅をあつせんした。)や金融機関からの低利(一部原告が利子補給)の住宅建設資金(上限額金一五〇〇万円)融資のあつせん等を行つたが、被告筒井は、自己の営む保険代理店業の性格上現住居は離れられないとして右ひばりが丘の公団住宅のあつせんをことわり、収入減も理由にして、また、被告薄井は、払下げを強く求めて、いずれも明渡しを拒絶した。以上の被告らの明渡しを容易にするようにとられた措置(法第二一条の四及び条例第一九条の九)が効果なくおわつたので、原告は、同年七月一六日条例第一九条の七に基づき本件審査会に被告らに対する本件制度による明渡請求についての意見を求めたところ、本件審査会は、同日被告らに対する右請求をいずれも「可」とする答申を行つた。

7請求原因8の事実のうち、原告が被告らに対し法第二一条の三及び条例第一九条の七に基づき昭和五一年七月二一日付内容証明郵便をもつて昭和五二年一月三一日限りで本件第一建物及び同第二建物の各使用許可を取り消し同日限り各建物を明け渡すよう通告し、右通告が被告薄井について昭和五一年七月二四日到達したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被告筒井宅にも右通告(書)が遅くとも同月二六日までに郵送され、同被告の勢力範囲内に入り同被告の了知可能な状態におかれたにもかかわらず、同被告が正当な理由もなくその受領を拒絶したことが認められ、これによれば、右通告書による明渡請求の意思表示が被告筒井について遅くとも同月二六日到達したことが認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

二そこで本件制度が憲法第二五条、第一三条及び第二九条の保障する居住権を侵害し、右各条に違反する旨の被告らの主張について、検討を加える。

1<証拠>によれば、以下の事実が認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 公営住宅は、昭和二六年に制定された公営住宅法に基づき国と地方公共団体の協力で住守に困窮する低額所得者に対し低廉な家賃でこれを賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的として(法第一条)建設され、この目的に従つて賃貸及び管理されてきたものであるが、法には当初入居者の収入については公営住宅に入居するための資格のひとつとしてこれを考慮する規定(法第一七条第二号)があつただけであつたので、昭和三四年ころには公営住宅の入居者の中に入居後の収入増加により民間の借家や公社公団住宅の家賃を支払つてもなお余裕のある生活ができる経済状態になりながら依然として家賃の低い公営住宅に居住し続ける者が多数でてきた。反面、深刻な住宅難の中で、多数の低額所得者が収入の点では法所定の公営住宅の入居資格を有し、かつ、右入居を切望しながら、公営住宅数の不足のためこれに入居することができない状況が生じた。この状況は、法の本来の目的に反し、社会的にみても公平を欠くものであつたので、これを是正するため昭和三四年の法の一部改正(同年法律第一五九号)により、公営住宅に引き続き三年以上居住している使用者で、公営住宅の種類に応じた一定の収入基準を超える収入のある者(収入超過者)に対し、当該公営住宅を明け渡すよう努力する義務を課すとともに、やむを得ない事情で当該公営住宅の明渡しをしない場合には、一定の限度内での割増賃料の支払義務を課した(右改正により新設された法第二一条の二、さらにこの法改正に基づき新設された条例第一九条の二及び三)。

(二) しかし、右改正後も、明渡しについては明渡努力義務にとどまつたため、右改正の目的が必ずしも十分には達成されず、昭和四四年ころには収入超過者の中には一般の勤労者の所得水準からみても相当高額と認められれる所得を有する者が相当数存在するにもかかわらず、地価の上昇(特に東京都等の大都市地域において)、建築予定地の地元の住民の反対等により公営住宅適地を取得することがますます困難となり、これに建築費、維持管理費その他諸経費の増加等も加わり、公営住宅の新規建築が停滞したことから、公営住宅の入居資格を有し入居を希望する多数の低額所得者が公営住宅に入居できないという、法の本来の目的に反し、公平を欠く状況は余りあらためられなかつた。そこで、住宅に困窮する低額所得者により多くの公営住宅への入居の機会を与えるため、公営住宅以外の住宅に入居し、あるいは住宅を取得しうるだけの十分な能力をもつと考えられるような相当高額な所得を得るようになつた公営住宅使用者に対しては、その入居している当該公営住宅の明渡しを請求できるようにする本件制度が昭和四四年の法の一部改正(同年法律第四一号)により新設された。

(三) 本件制度は、当該公営住宅に引き続き五年以上入居している者で最近二年間引き続き政令で定める基準(この基準は法第二一条の二第一項の第一種公営住宅に係る収入超過基準を相当程度に超えるものでなければならない。)を超える高額の収入のある者(高額所得者)に対し、事業主体の長は、期限(この期限は明渡請求の日の翌日から起算して六月を経過した日以後の日でなければならない。)を定めて、当該公営住宅の明渡しを請求することを認め、この請求を受けた者は、右期限が到来したときすみやかに当該公営住宅を明け渡さなければならない(請求を受けた者に病気その他条例で定める特別の事情があるときは、申出により、事業主体の長は、この期限を延長することができる。)とするものである(右昭和四四年の法の一部改正により新設された法第二一条の三)。右改正においては、法第二一条の四も新設され、事業主体に対し、高額所得者の明渡しを容易にするよう公営住宅以外の公的資金による住宅への入居等について特別の配慮をする義務が課された。

そして右改正法第二一条の三を受けて、政令で最新の統計資料から一般の勤労者世帯の収入として相当高額(全体の約一割以内を占める高額者の収入額)で公営住宅以外の住宅への入居等が可能と考えられる金額に基づき、昭和四四年六月の改正法施行後の公営住宅入居者についての収入基準額を定め、右施行前からの右入居者についてはそれよりかなり高額な金額を収入基準額として定めた。

(四) 東京都においても、右昭和四四年の法の一部改正の理由となつた状況は変わらなかつたので、右改正による本件制度新設をうけて、昭和四九年に条例の一部改正(同年東京都条例第一二三号)を行い、本件制度に関する条例第一九条の六から九までを新設したが、高額所得者の立場を考慮し、当時の政令が収入基準を昭和四四年六月の改正施行後の入居者について月額金一四万五〇〇〇円、右施行前からの入居者について月額金一七万四〇〇〇円と定めていたところを、年収約金五〇〇万円を一応の目安として、入居の時期を問わず月額金二六万六〇〇〇円を収入基準(収入基準の算定に当たつては、諸控除が年収から行われる。)として定めた。そして、知事(事業主体の長)が高額所得者に対する当該都営住宅の明渡請求をしようとするときは、あらかじめ五人以内の学識経験者の委員で組織された本件審査会に意見を求めることとし、実務の運用としても同審査会の明渡請求「可」の答申を得て右請求を行うことにした。また、明渡期限の延長事由があつて特に知事が必要と認めたときは、明渡請求の取消しが可能である旨定めた。さらに、明渡しを容易にする措置として、公社公団住宅への優先入居、分譲等のあつせんのほか、原告の利子補給による住宅建設資金低利融資あつせんも、運用として行うことにした。

(五) 昭和四四年の法の一部改正及び昭和四九年の条例の一部改正における立法理由とされた右(二)の事実は、その後においても存在している。

2(一) 被告らは、本件制度による明渡請求が許容されるためには「最近二年間引き続いての収入基準を超過する高額収入」という要件のほかに、明渡請求(通知)時(これが訴訟による場合はその訴えの口頭弁論終結時)においても当該公営住宅入居者の収入が収入基準を超えていること、また収入基準超過の程度や居住者等の死亡・失職・退職等個別的具体的事情の検討によつてもなお明渡請求が許容されるという実質的要件、さらに本件審査会における十分な審査等の手続的要件の充足が必要である旨主張するが、1に前掲の各証拠及び前記1認定の事実によれば、法、政令及び条例の定める本件制度による明渡請求の要件は、前記1(三)及び(四)認定のとおりであつて、被告ら主張の右事項は、右要件として定められていないものと解されるから、被告らの右主張は失当である。

(二) また、被告らは、本件制度による明渡請求にも借家法第一条の二の正当事由の具備が必要である旨主張するが、いつたん公営住宅の使用許可を受け入居した者と事業主体との法律関係は、入居者が他人所有の建物に居住しその利用の対価として家賃を支払う関係にある点で私人間の建物賃貸借関係と異なるものではないものの、公営住宅の使用関係については、法第一条所定の目的に沿つて特別に立法された公営住宅法の規定がまず借家法及び民法の特別法としてそれらに優先して適用され、公営住宅法に規定のない場合に借家法及び民法が適用されるものと解されるところ、本件制度による明渡請求は、前記1認定のとおり、法第一条所定の目的のため建設、賃貸、管理されている公営住宅の趣旨、性格から特別に定められた事業主体からの使用関係解消(解約)に基づくものであり、その要件も公営住宅法上前記1(三)認定のとおり明確に定められており、同法上右正当事由を要件としていないことは明らかであるから、借家法第一条の二の適用ないし類推適用の余地はないものと解され、したがつてこの点についての被告らの右主張も失当である。

3以上を前提に被告らの憲法違反の主張について判断する。

本件制度により、公営住宅居住者はその収入が一定の基準を超えた状態が二年間続くだけで明渡請求の対象になることになり、一般の借家の賃借人に比して不安定な地位におかれることは否めない。しかし、被告ら主張の居住の継続安定という利益が憲法上の基本権としても、その性格上憲法第一二条、第一三条及び第二九条等からみて公共の福祉による制約を免れ得ないと解される上に、公営住宅法第一条所定の目的のため建設、賃貸、管理されている公営住宅の趣旨、性格からして、公営住宅の入居者は、公共の福祉のために必要かつ合理的な範囲内で一般の借家の賃借人と異なる制約を受けることもやむを得ないものであり、このような制約は憲法上も許容されると解される。そして本件制度の立法理由は、前記1(一)及び(二)認定のとおり、公営住宅法第一条所定の目的に反し、社会的にも不公平な状況を是正するという公営住宅法の趣旨性格にそつた合理的なものであり、かつ、前記1認定の事実、特に本件制度立法化に至る経緯、公営住宅新築による住宅難解消が困難な現状、本件制度が公営住宅以外の住宅への転居等が可能と考えられる相当高額な収入の継続を明渡請求の要件としていることを総合すれば、本件制度の立法目的を実現するため右収入基準を超えた入居者の明渡しを求めることも必要かつやむを得ないものと認められ(本件制度の立法理由及びそれを実現する手段のいずれも合理性を欠くとする被告らの主張は採用できない。)、結局、本件制度によつて公営住宅居住者がこうむる不利益は、公共の福祉のために必要かつ合理的な範囲内のものであり、また、国又は地方公共団体の立法府が限られた財源のもとに公営住宅法第一条所定の目的を達するための手段の選択にあたつてその裁量の合理的な範囲を逸脱したともいえないから、本件制度を憲法第一三条、第二五条及び第二九条に違反するとする被告らの主張は、失当である。

三1次に被告らの本件制度における「収入」概念、算定方法等が不明確である旨の主張について判断する。

<証拠>によれば以下の事実が認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

本件制度による明渡請求の対象者となる要件である「最近二年間引き続く収入」とは条例第一九条の五により収入認定されたものによることとされている(条例第一九条の六)ところ、右収入認定は、認定をする年の一一月三〇日において引き続き三年以上当該都営住宅を使用している者(規則第二一条第一項)が行う収入に関する報告(条例第一九条の四)その他の資料(主に地方税の課税台帳)に基づき知事が行い(条例第一九条の五第一項)、また右収入が条例第一九条の三の定める基準を超過している者(収入超過者)に対して付加使用料を右収入に関する報告期限の属する年の一二月から徴収することになつている(規則第二〇条第二項)ことから、収入認定は一一月三〇日に確定する必要があることになるが、条例第一九条の五第二項が収入認定通知を受けた日から三〇日間の右認定に対する使用者の意見申出期間を定めているので、一一月三〇日に収入を確定するには、同日より三〇日前である一〇月三一日には遅くとも収入認定通知が使用者に到達する必要があり、結局、以上のような収入認定の手続を考慮すると、条例は、一〇月三一日より収入認定通知の到達に要する日数を差し引いた日の収入を基準に一応の収入認定を行い、使用者の意見申出がある場合には、所要の調査、修正をして、一一月三〇日に確定すべきものと定めていると解される。したがつて「最近二年間引き続く収入」というのも右収入認定の確定日から遡つた過去二年間の収入を定めているものと解される。ただ右認定に当たつては、収入に関する報告等の資料になる税務署等の公的証明書が使用者の前年度の収入についてしか入手できないため、原告の収入認定の実務処理としては、原則として、右基準日の属する年の前年度の所得税に係る収入(前年の一月一日から、一二月三一日までの収入)を基準として収入認定を行い、使用者の報告、意見申出等により、使用者の離職、同居親族又は扶養親族の変更等前年度の所得税に係る収入を収入認定確定日前一年間の収入と認定することが相当でない特段の事情が存するときは、これを修正要素として考慮の上、収入認定を行つていることが認められる。

以上の認定事実によれば、本件制度における「収入」概念、算定方法等は明確であり、その認定方法も大量処理を要する収入認定にとつて合理的なものであると認められるから、これを不明確とする被告らの運用違憲等の主張は、失当である。なお、前年度の所得税に係る収入を基準として収入認定することが相当でない被告らの特段の事情については、具体的な主張、立証はない。

2被告らは、本件明渡請求は「明渡請求(通知)時等における収入基準超過」という要件、その他実質的要件及び手続的要件の充足を欠いているから、本件制度の運用違憲にあたるか違法であり、許されない旨主張するが、被告ら主張の事項が本件制度による本件明渡請求の要件でないことは、前記二2(一)のとおりであるから、被告らの右主張は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

3被告らは、また、本件明渡請求には借家法第一条の二の正当事由がないから許されない旨主張するが、本件制度による本件明渡請求について同条の適用ないし類推適用がないことは、前記二2(二)のとおりであるから、被告らのこの主張も、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

四そこで、本件明渡請求が権利濫用である旨の被告らの主張について、検討を加える。

1まず被告筒井に対する本件明渡請求について判断する。

(一) 被告筒井が昭和二八年三月ころ原告から借りていた戦災住宅ビルから本件第一建物に移住し、当初家賃(使用料)が一か月金一七〇〇円であつたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被告筒井は大正三年二月一七日生れで、その妻は大正八年一二月二七日生れであること、被告筒井及びその家族は、第二次世界大戦及び終戦後のシベリア抑留等による悲惨な体験を経て本件第一建物に居住するようになつたこと、被告筒井らは、入居に際し原告の職員から本件第一建物が将来払い下げられる可能性が高い旨の説明を受け、現在も払下げを希望していること、被告筒井は、昭和三四年ころから本件第一建物を拠点として保険の代理店業を営んでいるが、その顧客の大半は、同建物近辺に在住していること、被告筒井の収入(所得税の所持金額)は、昭和五〇年度には金四四四万六一二八円に達したが、同年中に大きな取引先を失つたこと等から、同年をピークに昭和五一年度は金三〇七万八三二一円、青色申告をはじめた同五二年度以降は金二〇一万九四三七円(同年度)、金二二九万八六一九円(昭和五三年度)、金一九四万二六八七円(同五四年度)、金一九七万五二九二円(同五五年度)と減り続けていること並びに被告筒井は、原告に対し、前記一6認定のとおり、昭和五〇年一二月ころと同五一年三月ころ、昭和五一年度の減収の見込みを伝えており、昭和五二年二月二三日ころ昭和五一年度の収入が右のとおりである旨の税務署発行の公的証明書を提出したことが認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) しかし、<証拠>によれば、公営住宅法制定当時の当局は、公営住宅がその耐用年数の四分の一を経過したときは建設大臣の承認を得て当該公営住宅を入居者又は入居者の組織する団体に譲渡することができる旨の規定(昭和三四年法第一五九号による改正前の法第二四条第一項)に従い、公営住宅をある程度払い下げていく方針をとつていたこともあつて、右改正前の入居者の多くは、当該公営住宅の払下げについての期待を抱いて入居したものであつたところ、前記二1(一)認定のとおり、公営住宅新築による住宅難解消が困難となつたこと等やむをえない事情から、右改正により公営住宅の払下げは、特別の事情がある場合に限られることになつたことが認められ、その結果被告筒井をはじめ多数の入居者が右払下げの期待を裏切られた気持ちをもつたことは推認するに難くないが、この払下げの問題は、本件制度による明渡請求には直接の関連がない上に、右改正前においても、公営住宅払下げには建設大臣の承認を要件としていたものであつて、払下げが原則とされたり、入居者の要求により事業主体が右払下げに応ずる法律上の義務を負つたりするものではなかつたのであるから、本件第一建物払下げをめぐる従前の経緯ゆえに本件明渡請求が許されなくなるとは考えられない。

また、被告筒井本人尋問の結果によれば、同被告は、車で保険代理店業の顧客先をまわることが多いことが認められ、前記一6認定のとおり、明渡請求前に同被告が原告からあつせんを受けた本件第一建物近辺のひばりが丘の公団住宅においても従前の顧客をさして失うことなく保険代理店業務を継続することができた可能性が高いものと考えられる。

たしかに、明渡請求の通知を受けた昭和五一年度の収入が前記(一)認定のとおりであつて、条例の定める収入基準を下まわつていることが認められるが、この収入額でも政令の定める収入基準は優に超えている。そしてこの収入についての公的証明書が提出されたときには明渡期限が経過しており、右経過前に被告筒井から明渡期限延長の申出がなされたことを認めるに足りる証拠はない。以上の経緯からみて昭和五一年度以降の収入減少も余り重視すべき事案とは考え難い。

さらに、前記(一)認定のとおり、現在でも金二〇〇万円弱の年収を得ており、証人筒井千代の証言によれば、被告筒井夫婦間にはいずれも結婚して独立した長男及び長女がいることが認められ、これらによれば、本件明渡請求が許容されることにより同被告夫婦が路頭に迷う等の重大な事態が直ちに生ずるとは考えられない。

(三) 以上を総合すれば、前記(一)認定の事実をもつてしても、原告の被告筒井に対する本件明渡請求が権利の濫用であるとは到底いえないし、本件全証拠によつても他に本件明渡請求が権利の濫用であることを首肯させる特段の事情は認められないから、この点についての被告筒井の主張は失当である。

2次に被告筒井に対する本件明渡請求について判断する。

(一) 被告薄井夫婦が昭和二四年一〇月ころ本件第二建物へ入居したこと、同建物の属する保谷住宅の敷地が民間会社所有であつたこと、原告が関前住宅を居住者に払い下げたこと及び被告薄井とその妻の共有名義の柳沢の土地建物が存在することは、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被告薄井は大正九年六月二五日生れで、その妻は同一一年八月二〇日生れであり、夫婦の間には現在子供もおらず、同被告には椎間板ヘルニア等の持病があり、その妻はフィリピン生活が長かつたため日本語がよく話せないこと、被告薄井夫婦は、第二次世界大戦による悲惨な体験を経て本件第二建物に居住するようになつたこと、被告薄井は、入居に際し原告の職員から本件第二建物が将来払い下げられる可能性が高い旨の説明を受け、その後現に払下交渉もかなり具体化したが、結局実現しなかつたこともあつて、同被告は、現在も払下げを希望していること、被告薄井は、原告に対し、前記一6認定のとおり、昭和五〇年一二月ころと同五一年三月ころ、同被告が昭和三〇年ころから勤めていたスマル貿易株式会社の定年年齢が五七歳であり、約一年後(昭和五二年六月二五日)には定年退職で減収することを伝えていたところ、同被告の定年は六〇歳までにのび、結局同被告は、昭和五五年六月二五日同会社を定年退職し、以後無職であること、被告薄井の妻が経営していた五星商事株式会社は、赤字続きで昭和五一年までに既に約金三〇〇万円の欠損金を出していたが、昭和五二年には負債総額が金九〇〇万円(銀行からの借入金は約金七五〇万円)に達したことから従業員にも退職してもらい、同被告の妻が一人残つて事実上の整理状態にあること、柳沢の土地建物は、被告薄井が金二五〇万円、親戚の者が金四〇〇万円出捐し購入したものであり、将来売却してその代金を同被告二、右親戚の者三の割合で分配するつもりであつたこと並びに被告薄井らは昭和四八年ころから第三者に柳沢の土地建物を現在の資料一か月金五万円で賃貸し、右第三者は夫婦、子供二人及び母親という所帯であることが認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) しかし、本件第二建物払下げをめぐる従前の経緯ゆえに本件明渡請求が許されなくなるとは考えられないことは、前記1(一)にのべたところと同じであり、また、被告薄井の定年退職が当初の予定より後に三年のびていることからみて、本件明渡請求の通知がなされた昭和五一年七月当時定年退職による減収はかなり不確定要素を伴つたものであり、さらに、同被告は、前記一6認定のとおり、原告の公社公団住宅等のあつせんに対しても前記1(二)にのべたとおり本件明渡請求と直接の関連のない払下げを強く求めて明渡しを拒絶し本訴に至つたものであり、以上の経緯からみて、本件明渡請求の通知後の同被告の収入減少及び定年退職は余り重視できない。

そして被告薄井本人尋問の結果によれば、同被告は、定年退職の際退職金約七〇〇万円(税込み)を受領し、退職後も毎月金一二万円の厚生年金及び金五万円の柳沢の土地建物の賃料を受額していること、また五星商事株式会社の負債についても被告薄井の妻個人が負債を負つている訳ではなく、同妻は現在でも同会社から年に金二〇〇万円の報酬を受領していること並びに柳沢の土地建物は本件第二建物から歩いて約三分の場所にあり、被告薄井は、賃貸に際し、賃借人に将来売却する予定だからそのときは退去してもらう旨説明していることが認められ、以上によれば被告薄井夫婦が現在でもなお、多少の困難が伴うことは否めないにしても、他の住居に移住することは十分可能であり、結局本件明渡請求が許容されることにより同被告夫婦が路頭に迷う等の重大な事態が直ちに生ずるとは考えられない。

(三) 以上を総合すれば、前記(一)認定の事実をもつてしても、原告の被告薄井に対する本件明渡請求が権利の濫用であるとは到底いえないし、本件全証拠によつても他に本件明渡請求が権利の濫用であることを首肯させる特段の事情は認められないから、この点についての被告薄井の主張は失当である。

五1以上のとおりであるから、本件明渡請求は、いずれも法及び条例等の定める要件を充足したものであり、 被告筒井の本件第一建物についての使用許可及び被告薄井の本件第二建物についての使用許可はいずれも昭和五二年一月三一日限り有効に取り消されたものと認められ、かつ、請求原因3の増築部分及び付置建物については、条例第一八条の規定により、本件第一建物及び本件第二建物の明渡しと共に収去すべきものであるから、原告に対し、被告筒井は本件第一建物を、被告薄井は本件第二建物を、それぞれ各増築部分及び付置建物を収去して明け渡すべきである。

2被告筒井が原告に対し昭和五一年一二月分及び昭和五二年一月分の賃料(使用料)を口頭により提供したことを認めるに足りる証拠はない。しかし原告が従来の賃料(使用料)月額である金二四七〇円の受額をあらかじめ拒絶したこと並びに被告筒井が原告に対し昭和五二年八月三一日昭和五一年一二月分及び同五二年一月分の各賃料(使用料)金二四七〇円ずつ合計金四九四〇円を供託したことは当事者間に争いがなく、これによれば昭和五一年一二月分及び同五二年一月分の本件第一建物使用料(前記一2認定のとおり一か月金二四七〇円)は、右供託により消滅したものと認められる。

そして前記一2認定の事実によれば、本件第一建物の昭和五二年二月一日以降の使用料(賃料)相当損害金は一か月金二四七〇円であると認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。被告筒井が原告に対し昭和五二年八月三一日同年二月分から八月分までの賃料(使用料)を供託したことは当事者間に争いがないが、これは賃料としての供託なので適法なものといえず、同被告は右使用料(賃料)相当損害金の支払義務を免れ得ない。

3前記一2の事実によれば、本件第二の建物の昭和五二年二月一日以降の使用料(賃料)相当損害金は一か月金五八五〇円であると認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。被告薄井が原告に対し同月分から同年八月分までの賃料(使用料)を供託したことは当事者間に争いがないが、これは賃料としての供託なので適法なものといえず、同被告は右使用料(賃料)相当損害金の支払義務を免れ得ない。

六よつて、原告の被告筒井に対する本訴請求は、増築部分を収去しての本件第一建物明渡し及び昭和五二年二月一日から右明渡し済みに至るまでの一か月金二四七〇円の割合による金員の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、原告の被告薄井に対する本訴請求は、理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条ただし書及び第九三条第一項本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

なお各建物明渡請求に関する仮執行宣言の申立てについては、相当でないから、これを却下する。

(町田 顯 遠山和光 林 道晴)

第一物件目録

一 東京都練馬区石神井町八丁目二五番三号

都営下石神井住宅七五号

本造セメント瓦葺平家建居宅 一棟

床面積 三三・一二平方メートル

(別紙図面一・赤色部分)

二 同 所

木造セメント瓦葺平家建居宅(増築部分)及び本造亜鉛鉄板葺平家建物置(増築部分)

床面積 二一・九三平方メートル

(別紙図面一・青色枠部分<編注・斜線部分>)

第二物件目録

一 東京都保谷市柳沢二丁目五番三号都営保谷住宅八九号

木造セメント瓦葺平家建居宅 一棟

床面積 三二・二九平方メートル

(別紙図面二・赤色枠部分)

二 同 所

木造亜鉛鉄板棒葺平家居宅(増築部分)

床面積 一三・二四平方メートル

(別紙図面二・青色枠部分<編注・斜線部分>)

三 同 所

木造亜鉛波形鉄板葺平家建物置 一棟

床面積 三・三一平方メートル

(別紙図面二・桃色枠部分<編注・縦線部分>)

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